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けないんだっ

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けないんだっ

人物ではあるが、まさか人見知りの彼女が頼むとは思わなかった。いまだに彼とは話しかけられれば答える程度で、打ち解けているようには見えないのに。そこまで頑張るのもすべて『お兄ちゃん』のためなのだろう。
「悠人さんは? プレ日式新娘化妝ントもう決めたの?」
「僕は用意しなくていいと言われている」
「え、どうして?」
 美咲はきょとんとして、不思議そうに隣の悠人を見上げた。
「昔から互いにそうしてきたからな」
「じゃあ、私も用意しない方がいいのかな」
「いや、美咲はプレゼントすればいい」
 用意しなくていいというのはあくまで悠人に対しての話である。美咲を困らせないよう催促はしていないのかもしれないが、ひそかに期待はしているはずだ。ここで下手なことを言ってプレゼントをやめさせてしまったら、本気で絶交されかねない。
「用意しなくていいなんて言われてないんだろう?」
「うん……そうだよね。せっかく準備もしたんだし」
 美咲は気を取り直したように笑顔を見せて頷いた。ケーキ作りは初めてだけど化学の実験みたいで面白そう、などと無邪気にはしゃぐ。そのいかにも彼女らしい発言を微笑ましく思いつつ、同時に心配にもなるが、執事の櫻公開大學 課程井がそばについているはずなので大丈夫だろう。
 鉛色の空から、ぽつり、ぽつりと雨が落ち始めた。
 悠人ひとりならこのくらい気にしないが、女の子である美咲を濡らすわけにはいかない。木陰に入り、鞄から折りたたみ傘を取り出して彼女に差し掛ける。だがその数秒の間に、さきほどまでの明るさが嘘のように沈鬱な表情になっていた。
「どうした?」
「うん……こういうのも最初で最後かなと思って」
「誕生日パーティが? ケーキを作るのが?」
 悠人が尋ねると、美咲は目を伏せたまま曖昧に微笑んだ。
「お兄ちゃんね、結婚するみたいなの」
「……いや、まだしないと思うが」
「婚約者がいるって話していたもの」
 いったいどこでどう聞いてきたのかは知らないが、大地本人が言っていたのなら、その婚約者というのは間違いなく美咲のことだ。大地はいまでも美咲と結婚するつもりでいるし、美咲の意思を尊重するという条件つきだが、剛三もそれを容認している。しかし、そのことを悠人が勝手に教えるわけにはいかない。
「お嫁さんが来たら、きっと今みたいに構ってくれなくなるし、家にも何となく居づらくなると思う。せっかく家族になれて嬉しかったのに……本当は喜ばないといてわかってる。おめでたいことなのにこんなふうに思うなんて、妹失格だよね」
 その声に自嘲がにじみ、恥じ入るように顔をうつむける。
 初めて与えてもらった家族のぬくもりを失いたくない——彼女のそういう気持ちは何となくだが理解できる。悠人が大地に抱いている気持ちと根本は同じだろう。孤独な心に入り込んでくる彼の存在はあまりにも鮮烈で、まるで麻薬のようだ。いつのまにか失うことなど考えられなくなっている。
 もしかしたら大地は初めからこれを狙っていたのかもしれない。身寄りのない幼い少女ひとりを自分に依存させるなど、彼からすれば造作もないことだ。この状況で大地との結婚話を持ち出され、剛三も瑞穂も賛成しているとなれば受け入れざるを得ない。いや、もし他に逃げ道があるとしたら——。
「居づらくなったら僕のところに来い」
 傘を差し掛けたまま静かにそう告げると、美咲は驚いたように顔を上げた。
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